選手に色々なタイプがいるように、監督にも色々なタイプの方がいます。攻撃の方法論、守備の方法論、攻守のバランス、自主性重視の度合い、モチベーター適性・・・色々な要素が混じり合って「監督」を形成しています。
現在サッカー日本代表を率いるハリルホジッチ監督とサッカー女子日本代表を率いる高倉監督は、「デュエル(1対1)」「個の力」を重視するという点で共通の要素を持たれていると思います。そして両代表とも、一昨日昨日と行われた東アジア選手権最終戦で負けてしまい、しかも両方の内容が非常に低調だったことで批判に晒されています。
そんな中、一昨日北朝鮮女子代表に0-2で敗れたなでしこジャパンについて、2つの記事がリリースされました。
【なでしこは楽譜を持たないオーケストラだ 個の強さは必要だが、「組織」の整理を】
(スポーツナビ 江橋よしのりさんの記事)
【北朝鮮に完敗。CB鮫島彩の「問題提起」が示す、なでしこの改善策】
(web Sportiva 早草紀子さんの記事)
お二人とも結構気を使って書かれているのが伝わってきますが(笑)言わんとしている事の根底は共通のように思えます。
「楽譜を持たないオーケストラ」(江橋さんの記事からの引用)
「チームのカラーとなる基礎をある程度、固定メンバーで構築することも必要なのではないだろうか」(早草さんの記事からの引用)
江橋さんは選手個々の追い込まれた意識、早草さんはポジション間の意識の乖離を突破口に、現女子代表の「ベースの無さ」を指摘されています。
奇しくも翌日、韓国に1-4の大敗を喫した男子日本代表も同様の問題を指摘されています。
【4失点惨敗の韓国戦に反省の弁…昌子「主将として未熟」、小林「下がりすぎ」】
(デイリースポーツ)
【【佐々木則夫氏の視点】無策だったベンチ…1対1に固執し組織おざなり】
(スポーツニッポン)
上の記事からは、チーム批判ともとられかねないが言わざるを得ないポジション間の意識の乖離(小林)と追い込まれた意識状態(昌子)、下の記事からはチームとしてのベースの無さが浮き彫りにされています。
「全員落第」「ひとりで勝負できない選手たち」「戦える選手がいない」など、お〇ぎかとツッコみたくなるような過激なフレーズが選手たちに浴びせられる中、私はそうじゃないと思うんですが、私が思っていたことを言葉にしてくれていたのは、記者ではなく現役選手であり、今回、そして欧州遠征でも招集されなかった香川選手の言葉。
【香川真司、日韓戦惨敗に「海外組がいたらという問題じゃない」「危機感しかない」】
(フットボールチャンネル)
国内組が劣っていたかと言えば、昨年の今頃レアルマドリーの攻撃陣相手に奮闘していた昌子&植田とか、個々の実力が劣ってるとは思えません。この過密日程で3戦連続フルタイム起用、またチームでもやっていない右サイドバックをやらされる。また、意図が見えない選手交代、パニクってるチームに指示も碌に出さない。マネジメントの方が余程問題があると思います。佐々木元監督の指摘のように「組織」が無いのです。根っこが無いバランスの悪い幹に枝葉だけ飾っても、揺らせば落ちるだけのことです。
佐々木前なでしこ監督の話が出たところで話を女子代表に戻しますが、女子代表でも似たような問題に陥っているように見えます。
「デュエル」などに代表される選手個々のレベルアップは勿論不可欠な要素に違いないのですが、ベースとなる戦術が無い、共通意識の無いチームは、それこそ「即興」だけで交響曲を作ろうなんていう、世界トップレベルで何とか希望がありそうぐらいのことを今の世代交代真っ只中女子代表にやらせようというんですから、そりゃ無茶というものです。
攻撃にしろ守備にしろ、ある程度の「共通意識」「約束事」は不可欠だと私は思っています。こと守備に関しては、最初から個々で守れなどという監督は100人いてゼロ、であってほしいと願っていますし、実際いないでしょう(笑)サッカーは、ある程度のボールスキルがある前提ならボール保持側が圧倒的に優位であり、ドリブルで抜く、パスをする、シュートする、キープする等々選択肢は選り取り見取りで、それを少しずつ潰していくのが守備だからです。
攻撃も最近は似たようなもので、バルセロナに移籍で入って成功する選手が少ない(特に中盤)のは、あの複雑な動きが即興だけでなく、きちんと土台があって、カンテラからそれを学んでいる下部組織上がりの選手は組み込み易く、即興は出来ても土台がない選手は時間が必要、或いは理解できないまま別の移籍先に旅立つことが多いのでしょう。このレベルでなくても、ほとんどのチームは必ず土台となる考え方やプレースタイルが存在します。
なでしこジャパンのスタイルと言えば、ワールドカップ優勝時の2011年のスタイル、前述のバルサを想起させるようなパスサッカーと言われてきましたが、今のなでしこジャパンにはその土台が無い。パスの出し手と受け手の共通理解が無いように見えます。この辺は江橋さんの記事の1ページ目後半に詳しく記載されているので、そちらをご覧ください。高倉監督の北朝鮮戦後のコメントに「私自身は組織に逃げるチーム作りはしたくない。」というフレーズがありますが、今の代表は「個々の判断のみに逃げている」ように映ります。車の両輪として扱えばいいのに、どちらか片輪走行しようとしてバランスを崩しているように見えてならないのです。
同じような傾向は、昨年の中頃に深刻なスランプに陥ったAC長野パルセイロレディースにも見られました。
本田美登里監督は、前述の現代表監督2人と同じく、個々のレベルアップや判断を重視される監督です。地元新聞に隔月連載されている監督の寄稿「矜持」で、湯郷監督時代のエピソードが紹介されていました。
移籍してきた選手に「本田さんはどうしてパターン練習をしないのか」と不思議がられたことがある。選手Aから選手Bへボールをつなぎ、最後は選手Cがシュートする―エリアとプレーが決められた練習のことだ。彼女は「パターンがあれば点を取れる」と主張したが、私は「それで勝って面白いの?」と取り合わなかった。選手がまるで精密機械のように戦えば、個人の判断が入り込む余地がない。自分で判断して決断を下し、責任を取るのがサッカーの醍醐味だ。
仰る通りです。勿論、システムが必要なことは監督も重々承知されていて
システムには、個性を尊重して選手のイマジネーションを融合させる側面と、もう一方ではパターンでチャンスをつくり出す側面の二つの要素がある。そして個人技術が低い現在のわれわれにとっては、前者だけでなく後者も必要な場面がある。ただ、最終的に目指すところは、個で守って、個で点を取ることができるチーム。それができたらより楽しいと思う。そのために来季に向け、さらに引き出しを増やさなければならないと感じている。
と仰っています。全文を読みたい方は、クリスマス過ぎ頃に発売される(地元では12/20発売を確認)パルセイロの公式グラフに毎年全文掲載されていますので、そちらをご購入下さい(さりげなく宣伝)
パターン、ベース、共通理解というものは、私は「保険」「お守り」のようなものだと思っています。選択肢がほとんど無くなってしまった時「とりあえずこんなのがあったっけ!」って出来るもの。或いは、バラバラになりそうなチームを繋ぎ止める糸のようなもの。程度を誤ると雁字搦めの自縄自縛になりますが、拠り所程度であれば、在って損はないと思います。奇しくも、パルセイロレディースが夏場以降機能しなくなった時の問題点が、私の眼には今回の代表戦で江橋さんが指摘されている
いかに集団で相手をかわし、いかにシュートに持ち込むか、というテンプレートがないため、選手たちは試合ごと、シーンごとに考えながら(迷いながら)プレーしている。そのため、いいテンポがなかなか続かず、ミスからボールを奪われる場面も多い。
と同じものに映りました。
シーズン中、或いは横山選手の移籍が大きく響いたのは事実ですが「そこを言い訳にしない」との言葉通り1部残留というノルマは達成し、早々に契約更新がアナウンスされた本田監督。フロントも、勿論サポーターも、来シーズンに本田監督がどんなチームを仕上げてこられるのか、期待しています。願わくは、攻撃一辺倒でなくても良いので、選手が迷いなくのびのびプレーしていたように見えた2016年シーズンのようなチームが見たいです。スタジアム全体が一体となって一喜一憂するようなチームを。
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